毎日勉強しているけど、なかなか使える知識として身につかない。
ただ暗記するだけで応用できるようにならない。
…どうすればいいのか?
書籍『RANGE 知識の「幅」が最強の武器になる』には、このような悩みの解決につながる方法が書かれています。
RANGE(レンジ) 知識の「幅」が最強の武器になる
勉強の効果を上げて、使える知識・技術にする方法は何か。
もったいぶらずに結論を書くと、”困難”を取り入れることです。
困難とは、自分で考えること、修正すること、時間を空けて思い出すといったものです。
知識習得にも、応用力を身につける上でも、重要なポイントです。
今回は、短時間で学ぶ(暗記する)方法ではなく、確実に定着させて使えるスキルとすること、さらに応用力を高める方法をまとめていきます。つまり「効率」よりも「効果」にウェイトを置いています。
目次
ビジネススキルや英語の学習効果を高める4つの方法
かつての「つめ込み型教育」では、ひたすら反復をして単語や物事・事象を暗記していくことを重視していました。特に文系では「知っている量」が評価される傾向があり、私自身もそうだったと感じています。
詰め込んだ知識はすぐに薄れ、使えるものになりません。これから変化の激しい時代で求められるのは、使える知識やスキルを身につけて、あらゆる物事に対応していくことです。学び方を変えなければなりません。
アメリカの認知学者であるネイト・コーネルは、学習の効果を高め、使える知識・技術にするには「望ましい困難」を取り入れることが有効と述べています。
「RANGE」に書かれている「望ましい困難」とは、次の4点です。
- 自分で答えを出そうと奮闘すること
- 間隔を空けて練習すること
- 与えられた解法で答えを出すのではなく、理由を考えること
- 多様性を持たせて学ぶこと
本に書かれた表現は難しいので、私の方で解釈(意訳)しています。
1.2.は知識習得の効果を高めること、3.4.は応用力を高める方法と言えるでしょう。
自分で答えを出そうと奮闘すること
わからないことがあったら、すぐに詳しい人に質問して解決した方が効率的。これが一般的な考え方です。しかし、「RANGE」では多少時間を掛けても、自分で奮闘することの大切さを説いています。
自分一人で答えを出そう(生成しよう)と奮闘することは、たとえ出した答えが間違っていても、その学びは強化される。(中略)学習者がこれを実行するには、将来のメリットのために、現在のパフォーマンスを意図的に犠牲にしなければならない。
自分で考えて生み出すことを「生成効果」と呼びます。
ニューヨーク市の小学生と、コロンビア大学の学生を対象に、語彙の学習についてテストしたところ、答えを自分で考えた問題の方が、学習の成果は高かったそうです。
また、答えを間違えてしまった場合でも、大きな誤りに耐えて修正することでむしろ記憶に強く残ることがわかっています。これを「過剰修正効果」と呼んでおり、間違えた答えに自信があればあるほど、効果が高いことがわかっています。
そのことを表す象徴的なコーネルの言葉があります。
人生と同じで、学びの道のりとは(失ったものや失敗を)挽回しようとすることだ。
余談ですが、キングコングの西野亮廣さんが「失敗はデータを取ることができるため(成功以上に)貴重である」といったことを述べています。
挑戦しないことの弊害と、間違った経験から成長する良い言葉だなと思います。
間隔を空けて練習すること
学んだ事柄を忘れずに、体に染み込ませる方法として「間隔を空けた練習」「分散した練習」が効果的です。時間の間隔を空けて、あえて「その間に練習しない」ということもできます。
この感覚が大変さ(困難)をつくり出して、学びを強化します。再びコーネルの言葉を引用します。
空ける間隔の長さには限界はあるが、それは普通に考えられるよりは長い。外国語の単語の学習、飛行機の操縦など、何でもこの練習の対象となり、それが大変であればあるほど学習効果は高い。
誰しも短期間で効果を得たいものですが、必ずしも短期で効果が出たものが永続的に身に染みるとは限りません。
何かの独学、特に英語学習によくあるのは続かないこと。
途中で間が空いてしまっても、そのことをポジティブに捉えて再挑戦。単語や文法をもう一度おさらいすることで定着率が高まります。
毎日勉強・練習できている人も、違った要素・パターンを取り入れて、一つの練習内容に間隔を空けることを考えた方が良さそうです。
与えられた解法で答えを出すのではなく、理由を考えること
ある問いに対し、先生や先輩などに解法・ヒントを与えられて答えを出すのではなく、その問題や理由を深く掘り下げて考えます。そうすることで、ある問題に対する一つの答えではなく、柔軟性を持った知識として身につきます。
例えば、歴史のある出来事を説明せよ、という問いがあったときに、模範解答に近い答えをするのが従来の教育。そうではなく、背景や人間関係を調べて、その人の考えていたことや、関係性から様々な可能性に思いを巡らせるのがこれからの学びだと思います。
この本では「関係を認識する」と紹介されています。解法に基づき答えるのではなく、問いかけの抽象度を上げて、概念的に物事をみる力をつけるという意訳もできるでしょう。
哲学者のソクラテスや、ハーバード大の人気講師で、アメリカの政治哲学者であるマイケルサンデルの”問いかける講義”は、応用力の高い知識を得る良い手法だと思います。
多様性を持たせて学ぶこと
同じパターンで連続して反復することを「ブロック練習」と呼び、さまざまな例や問題を織り混ぜて学ぶことを「多様性練習」または「インターリービング」と呼びます。この多様性練習が、学習の効果を高めます。
アメリカの海軍航空隊のシミュレーションにおいて、ブロック練習と多様性練習を行う二つのグループに分けてテストが行われたそうです。その結果、テキストにあるような特定の問題では、ブロック練習をしたグループの方が成績が良く、全く新しい事態を想定したシナリオでは、多様性練習を行ったグループの方が圧勝したそうです。
学んだ生徒としても、目の前の進歩が感じられるブロック練習の方が効果的と実感しているものの、新しい課題に対して適切な方法を選び適用する能力は多様性練習によって高まるとされています。
今の時代の学びでは、多様性練習の方が大事なことは言うまでもありません。
この本では、次のように多様性練習(インターリービング)について総括されています。
インターリービングにより、帰納的推論(※)の能力が高まることがわかっている。さまざまな例が混ざった状態で示された時、生徒たちは抽象的な一般化の方法を学び、それによって、今までに出会ったことがない状況に対して、学んだことが応用できるようになる。
※複数の事象をもとに一つの結論を導き出す推論方法
この「RANGE」は、そのほかにも、暗黙的に良いとされている「早期教育」や「専門特化」した教育のあり方にも一石を投じています。
タイトルにある通り学びには「知識の幅(RANGE)」が必要であると、さまざまなテスト結果をもとに繰り返し主張しています。
とても面白い本で、読み応えがあります。間違いなく良書だと思います。
RANGE(レンジ) 知識の「幅」が最強の武器になる