ワークショップやファシリテーションって、何となくイメージでは分かっているけど、いざ「仕切れ」と言われたらどう進めるか正直わからない……。
何となくみんな集めてワイワイ会議して、付せんやホワイトボードに書きながら進めれば良いもの?ポイントはあるの?
このような湧き上がってくる疑問に対し、ストーリー形式で理解できるのが、「ストーリーでわかるファシリテーター入門」です。
ストーリーでわかる ファシリテーター入門
ワークショップの定義や、ファシリテーターの役割を教科書的に説明されるよりも、ストーリー形式で説明された方が、私は納得感がありました。
もし、利用シーンをイメージしながら理解したい方は、この本をオススメします。
目次
「ストーリーでわかるファシリテーター入門」で学ぶ課題解決
この本では「組織の活性化」を課題としている架空の会社を舞台に、ストーリーでワークショップの進め方や、ファシリテーターの役割を学べます。
本の流れを超ざっくり言うと、主人公の女性(南里マリコ)がファシリテーターとして、小売現場の店員を集めてワークショップを開きます。
最初のテーマは「店員に、その店の特徴を明確にさせる」こと。
彼女が行ったのは、自ら課題を解決するのではなく、ワークショップを通じて現場の人間に、主体的に解決策を考えさせ、実行に移させたことです。
これがファシリテーターの真髄です。
ファシリテーターのテーマ選定と仮説立案
ファシリテーターの主人公・南里マリコは、ワークショップの準備としてテーマ選定を行い、裏テーマとも言える仮説を立てています。
ストーリーは、とある小売会社の幹部・人事部が「会社内の方針が、現場に行き届いていない」問題を話し合う会議の場から始まります。
会社の意向として「各店舗のコンセプトをはっきりせよ」「特徴を出せ」「PDCAを回せ」という意識を持たせたいものの、現場では浸透されていません。
ファシリテーションの知見があるマリコは、ワークショップを用いて問題を解決すべく、売上が低迷している港北店に向かいます。
課題解決に向け、マリコが悩みに悩んで設定したテーマは次のとおりです。
- 店の特徴をはっきりさせる
- 顧客体験を実現する接客を考えさせる
- 働き方を変える
参加者に店舗の特徴を考えさせるだけでなく、その店舗で働くことの意義や、お客さまにとってネット店舗にはない”店員の価値”があることを発見させようとしています。
ここでわかるのは、ファシリテーターは、幹部目線ではなく現場の理解に努めていること。
自ら結論は出しませんが、ワークショップ参加者の気持ちに思いを巡らせながら課題の本質を考え抜き、「自己効力感を高めることが重要」という仮説を立てています。
ワークショップは、1度では終わりません。
何度も繰り返すことで参加者全員の姿勢・マインドが変わっていきます。
ワークショップをスムーズに進めるポイント
ファシリテーターは、もちろん仮説だけでなく、会議の場をスムーズに進行させる方法論も持っています。いくつか紹介します。
考えるアタマを作る準備
本題で深い思考をさせるために、本題に入る前に、視野を広げ「なぜ」を問う質問で深く考えることを練習させています。
最初のテーマは「店の特徴をはっきりさせる」。
このテーマを議論するに当たり、いきなり「みなさんの店の特徴を書き出してください」とは言いません。
まず、「よい店と聞いて思い出す店は?」「なぜそう思ったか?」というステップを踏んで、他の小売業の良いところを考えさせます。
この練習を通じて、本題での議論が最初から深まります。
本題を考える上でも効いてくる質問になっているため、効果的な進め方だと思います。
問いかけのコトバの選定
ファシリテーターの問いかけは、参加者の思考に大きな影響を与えるため、コトバの選定はとても重要なポイントです。
主人公のマリコは、「みなさんの店の特徴は何でしょうか?」という問いを、途中から「お客さまに選ばれる理由(としての特徴)は何でしょうか?」と言い替えます。
「主観で考える特徴」から、「客観的な視点での価値」に切り替えることで、参加者がお客さま視点で正しく捉えるきっかけを作っています。
拡散と収束の手法
ファシリテーターは、発散と収束を繰り返して議論をまとめさせます。
特に発散した議論をどう収束させるかが、ファシリテーターの腕の見せ所です。
この本で、収束として使っているのは、「ペイオフ・マトリックス」と呼ばれる2軸での分類です。例えば、お客さまに選ばれる理由に対する施策を付せんに書き出させます(拡散)。
その後、「効果の大きさ」「実現可能性」という2軸の該当するところに貼り出させ、重要なものを選ばせます(収束)。
これができなければ、発散して終了する無駄な会議になってしまいます。
実行計画への落とし込み
施策はそのまま放置せず、「3Wアクションシート」に落とします。
3Wアクションシートとは、何を(What)、誰が(Who)、いつまでに(When)を書いたシンプルな表です。
例えば「店のホームページを変える」「○○さん」「2月5日」というようなものです。このコミットがあることで、実行に移されます。
主人公の思考プロセスでファシリテーションを理解する
主人公・南里マリコはスムーズに計画できた訳ではなく、何度も悩みます。
また、計画も予定どおりに進まず、一部の上司から無駄な努力だと揶揄されます。
これは、現実でも起こるワークショップあるあるです。大勢の会議を仕切ったことがある人は、共感しながら読めると思います。
また、この本は、ストーリーをベースにしていますが、付録にはしっかりと技術的な解説があります。
ファシリテーターに求められる思考の技術
「ストーリーでわかるファシリテーター入門」 付録
①ゴールを常に意識する
②話やすい状況を維持する
③時短型アイスブレークとしての「思い出し」
④具体論と抽象論の往復
⑤良いアイデアが出ないときの原因と対処法
⑥収束の技術
⑦「場外」のアイデアを拾う
読み物としても面白く、合意形成を得る会議の進め方を学ぶには、とても良いと思います。