「売上が下がっている…」「どうも残業が多い…」「これから何を学んでいけばよいのか…」など、社会は様々な問題と課題でできています。
特に最近は、変化が激しく未来が見通せません。それでも我々はビジネスを展開し続ける必要があり、局面局面でどう舵を切っていくかを考える力が求められています。
このような時代を生き抜く力となるのが推論の技術です。
書籍「問題解決力を高める『推論』の技術」にその全てがまとめられています。
問題解決力を高める「推論」の技術
この本は、推論の技術を「帰納法」「演繹法」「アブダクション」と呼ばれる思考ツールに分解し、超実践的な事例でわかりやすくまとめてあります。
コンサルが書いた本はカタカナ用語が多くわかりづらいのですが、著者の羽田さんは広告畑で働いた経験もあり、”読み手の視点”でわかりやすく伝えています。しっかり学べる本です。
思考ツールなので、ビジネスだけでなく、研究論文やレポートを書く際にも役立ちます。
私は精読すべき本だと思い、すでに3周読んでいます。
さらに本ブログで取り上げ、その一部紹介しながら、自分でも知識の定着を図りたいと思います(それだけ良い本です)。
目次
「推論の技術」を構成する3つの思考ツール
本書では、推論の技術として次の3つの要素(思考ツール)に分解して紹介しています。
- 帰納法
複数の「事実」から「共通点」を発見して「結論」を導き出す推論法 - 演繹法
「前提となるルール」に物事を当てはめて結論を出す推論法 - アブダクション
起こった現象に対して「法則」を当てはめ、新たな仮説を発見する推論法
どうでしょう? たぶん、この概要説明だけだとピンと来ない方は多いと思います。
帰納法と演繹法は、学校の授業で聞いたことがあるものの、概念としての知識しかなく、両者に混乱がある人は多いと思います。アブダクションになると、おそらく理解している人は、だいぶ少なくなると思います。
もちろん、「名前と概念を知ること」は本質ではありません。三つの思考ツールの違いを理解して、シーンに応じて使い分けられることに意味があります。
とは言え、しっかり使い分けることができれば、結果として、それぞれの名前が認識でき、抽象概念として頭の中で整理できると思います。
では、どうやって理解すれば良いか。
それは本で読みましょう!というのもイマイチなので、少し理解しやすくするために、私の方でイメージを図解してみたいと思います。
「推論の技術」①帰納法とは?
「帰納法」では、あらゆる事実の中に共通点を見出して、そこから結論や法則を導きます。 書籍の事例を元に図解すると、次のような形になります。
下にある「事実」から集約されるイメージです。
「収益性が高い」ことが3つの事実の共通点で、単純に結論を出すと「3つの会社の共通点は収益性が高い」となります。しかし、それは自明で事実を述べているだけなので、もう少し踏み込んで3社の共通点から収益性の高い法則を導きます。
例では「新しい市場を創造していること」が共通点として見つかり、それが収益性の高さを生み出していると考えています。 他にも収益につながる共通点がある可能性があり、ここに一つの推論があります。
具体(事実)から、推論を挟んで抽象(法則)化されます。
帰納法は他にも「売れている商品のトレンド」から「商品コンセプト」を導いたり、「売上が上がっていない複数の事実」から「原因」を考えたりする場合などにも適用できます。
「推論の技術」②演繹法とは?
続いて「演繹法」です。「前提となるルール」から「結論」を導く手法とはどういうことか。こちらも書籍の事例から図解してみます(結論は少し変えています)。
少しシンプルな事例ですが、一般的な法則から、自分たちのホームページを比較して、結論は刷新すべきという結論に導いています。帰納法と反対で、抽象から具体(事実)に落として結論に導くイメージです。
前提となるルールに、直面している事実に当てはめられるかという推論を働かせます。
実際は「売上に結びつかないホームページはダメ」というのは当たり前の話。
ですので、ダメな理由として実際は訪問者が少ない、成約に結びついていない、さらには内容が浅い、アクションが書かれていないといった掘り下げが必要になります。
演繹法の例をもう少し挙げてみます。
- 「市場でのポジション」や「製品の成熟度」に応じた戦い方のセオリー(法則)に照らし合わせて、自社の行動を考える。
- 「今後はIT技術者を確保した企業が生き残れる」という法則から、積極的にIT技術者の採用を進める。
ビジネスで適用する場合の注意点は、「そもそもその前提・法則は正しいの?」という問いが抜けてしまいがちな点です。社内にいる働かないおじさんを見て、「マネジメント不要論」を法則化するのは極論ですし、かつて成功した法則が今の時代で通用するとは限りません。
間違った法則を信奉して、茨の道を進むほど悲しいことはありません。
「推論の技術」③アブダクションとは?
最後は、言葉としては馴染みの薄い「アブダクション」です。こちらも図をもとに見ていった方が理解しやすいと思います。
「売上が下がった」という事実を元に、考えられる原理(法則)に考えを巡らせます。
演繹法と比べると、スタート地点が異なることがわかると思います。
図の例では売上の構成要素を市場規模とシェアに分解して、それぞれが下がると売上も下がるという原理を用いています。
さらに、そこからロジックツリー(Whyツリー)で整理。自社が直面している状況で当てはまる推論の中から、仮説「販促活動の見直しが必要」を導いています。ちなみに同書では、仮説の前段階の推測やアイデアに当たる部分を「推論」と定義しています。
帰納法・演繹法に比べて、推論のレベルが上がっています。
馴染みのないアブダクションが、最もビジネスで求められている課題解決スキルなのかもしれません。
また、「Youtuberは人気が高まっている」「ハーレーダビッドソンは人気がある」といった自社の外の事実から、人気の理由を法則として考え、自社でも応用できないかと考えるときにも使えます。
こちらは高い洞察力に基づく推論が必要となり、他の事例に適用するアナロジー(類推)も必要とされます。成功している経営者や事業者が、他社の事例やスポーツの成功哲学を学ぶ理由は、頭の中でアブダクションを行なっていることが考えられます。
今の時代に合った、より高い技術と言えるでしょう。
3つの思考ツールは組み合わせでも使う
これらの思考ツールは、必ずしも単独で使うだけのものではありません。
例えば、一つの部署で考えられた法則を、他の部署に適用(横展開)する場合は、帰納法と演繹法を組み合わせて使えます。
また、マーケティングの整理ツールとして知られている4Pや3C、PEST分析などのフレームとの組み合わせた使い方についても書かれています。
状況に応じて必要な思考ツールを引き出して、組み合わせや応用ができるようになれば、課題解決力が高いといえるでしょう。
ただし、注意すべきは、ツールやフレームワークに頼って前提やありきで論理展開してしまうこと。常に前提や法則が正しいかを疑う思考(クリティカルシンキング)も持ち合わせておく必要があります。
概念としての知識ではなく、使えるツールにしなければ意味がない
「推論の技術」は、理解しやすいように3つの技術に対して全く同じ構成で、書かれています。
・○○法(帰納法/演繹法/アブダクション)とは?
・○○法の利用局面
・○○法の頭の使い方(ステップ)
・ビジネスに○○法を活かす方法(具体例)
・応用方法
理解の流れに沿って、使えるようになるまでわかりやすい文章・説明で書かれています。
また、実践的な事例が豊富です。売上、商品開発、生産性向上、働き方の見直しなど、本当によくある事例から考えられます。
「読んで概念はわかった」だけでは、使えるようになりません。この本を読みながら自分が直面している課題に置き替えて考え、法則化したり、ツリーで整理しながら原因を考えてみることで、力がついていきます。
納得感のある良書でした。おすすめです。
▶︎問題解決力を高める「推論」の技術