なぜ、アメリカでは、次々と新しいサービスが生まれるのか?
新しい事業を生み出す力とは何か?
決済サービスPayPalの創業者であり、投資家でもあるピーター・ティール氏が、著書「Zero to One」で事業を作る際に必要な考え方をまとめています。
ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか
新しい事業やサービスの創造が必要なのはベンチャー起業家だけではありません。
日本でも、新しい事業を創れなければ、大企業でも沈んでいくのが現状です。
また、今後、個人事業主も増えていくことを考えると、多くの社会人にとって参考になる一冊だと思います。
今回は、この本から、新しい事業を生み出す原動力を学びたいと思います。
目次
新しい事業を生み出すパターンはあるが、方程式はない
ゼロトゥワン。日本語にすると「0から1へ」。
デザイン思考だとか、ブレーンストーミングだとか、何か新しい商品やサービスを創造する方法論のようなものを本書に期待します。
しかし、冒頭の「はじめに」でその期待は打ち砕かれます。
起業には多くのパターンがあることに気づいたし、本書でもそれらを紹介しているけれど、この中に成功の方程式はない。そんな方程式は存在しないのだ。起業を教えることの矛盾がそこにはある。
(中略)
実際、ひとつだけ際立ったパターンがあるとすれば、成功者は方程式ではなく第一原理からビジネスを捉え、思いがけない場所に価値を見出しているということだ。
これは、どういうことなのでしょうか。 読み進めていくと、次のような記述もあります。こちらの方が理解しやすいと思います。
本書は、これまでにないビジネスを成功させるために自らに問うべきこと、答えるべきことを提示するものだ。ここに書いたことは、マニュアルでもなければ、知識の羅列でもない、考える訓練だ。
なぜなら、それがスタートアップに必要なことだから。従来の考え方を疑い、ビジネスをゼロから考え直そう。
つまり、方法論ではなく考える習慣。常に問題意識を持ち、「既定の枠組みに捉われない思考」が大事ということです。
「規定の枠組みに捉われない思考」に加え、市場での戦い方や、成功するための条件の理解も必要だと言います。 順を追って見ていきたいと思います。
クリエイティブなアイデアは「隠れた真実」にある
新たな事業アイデアは、何もないところからポッと生まれるのではなく、今まで誰も気づかず、疑うことのなかった「隠れた真実」にあると、ティール氏は述べています。
ティール氏は採用面接で必ず質問していたことがあると言います。
「賛成する人がほとんどいない、大切な真実はなんだろう?」
この質問で、新しいものを生み出す思考(の習慣)があるか見抜こうという意図があります。
しかし、多くの人は常識の中で生き、「隠れた真実」などのことは考えていません。その理由として、4つの社会トレンドが阻害要因になっていると言います。
- 漸進主義
「毎日少しずつ物事を進めること」が正しいやり方だと教え込まれている。 - リスク回避
多くの人は主流から逸れて、間違いたくないという心理が働く。 - 現状への満足
社会のエリートになり安泰だと感じると、隠れた真実を探す理由がなくなる。 - フラット化
グローバル化により世界の平準化が進むことで、世界のどこかで自分より賢い人が既に新しい発見にたどり着いていると錯覚する。
この理由だけ見ると、日本でイノベーションが起きにくい理由がわかります。
みんなの常識に逆らうことや、どうしようもないと思っていることを言えない空気感がありますよね。
常日頃から問題意識を持ち、KYと言われようが、炎上しようが、正しいことに異を唱えたり、疑問を投げかける異端(問題)児になれるか。
みんな集まってアイデア出しをするよりも、個人の持つ渇き(渇望感)から生まれてくるものの方が尖るように思います。
競走に勝つことではなく、クリエイティブな独占をめざす
ティール氏は、成功する企業の条件は、「その分野において、市場を独占しなければならない」と述べています。
既に市場に出回っているアイデアや、すぐに追いつかれるアイデアでは、競争下に置かれて消耗戦になります。一方、独占企業は自由に価格を設定でき、そこで得た収益を元に高い価値を創造するループが可能になります。
変化の激しい現代で永続的な企業となるためには「クリエイティブな独占」をめざすべき。突き抜けたアイデアは、より良い社会を作る力になるとも言います。
クリエイティブな独占を可能にする事業アイデアには、次の4つの特徴(条件)を持つと、ティール氏は述べています。
- 他の追随を許さない高い技術
プロプライエタリ・テクノロジーと呼ばれる、他に追随を許さない専有技術。
例えば他社の追随を許さないGoogleの検索アルゴリズムや、Amazonの在庫数(保有能力)なども、これに当たります。 - ネットワーク効果
利用者が自動的に増える仕組みと、同時にユーザーの利便性が高まる仕組み。
Facebookや決済サービスなど、利用者や利用できる環境が増えることで、利用者が使いやすくなり、事業者の販売網が広がっていきます。 - 規模の経済
より大きな顧客を獲得できる可能性。
実店舗の出店が必要なビジネスは、地域により顧客に限界があり、固定費も増加します。一方で、IT企業はこのような総費用(限界費用)の増加はなく、際限なく顧客を獲得できる可能性があります。 - ブランディング
製品・サービスが持つブランド力の強化。
ロゴ、デザイン、独自の広告戦略など。 ただし、ブランドから始めるのではなく、まずは技術や利便性など本質が先であり、魅力のある製品・サービスであることが重要です。
クリエイティブな独占企業になるには、小さな市場から入り、徐々に規模拡大をすることが基本だと言います。 ただし、先手必勝で市場に入る必要はなく、小さな市場で戦いつつも、最後に勝つように力をつけていけば問題ありません。
ビジネスが答えを出すべき「7つの質問」
ティール氏は、クリエイティブな独占に必要な「人材(チーム)」や「販売」の考え方もまとめています。これらを総合して、新しい事業を行う際に次の7点について自問する必要があると述べています。
- エンジニアリング
ブレークスルー可能な技術は保有しているか? - タイミング
ビジネスを始める最適なタイミングか? - 独占
小さな市場から開始し、大きなシェアを取れるか? - 人材
適切なチームづくりをしているか? - 販売
プロダクト・サービスを作るだけでなく、それを届ける方法があるか? - 永続性
この先10年、20年と生き残れるポジショニングができているか? - 隠れた真実
他社が気づいていない、独自のチャンスを見つけているか?
変化の多い時代に、日本とアメリカの間に大きな差がついたことは、この本からも十分感じ取れました。私にとって刺激のある一冊でした。