時代の変化はあまりにも早く、ビジネスの世界では、既存事業・サービスの限界や、機械化の驚異に晒されています。
一方で、新しいサービスで急成長するスタートアップ企業や、自分の得意分野を発信して富を築くYoutuberなどが次々と誕生しています。
疲弊する企業と、独自の世界を築く企業や個人の違いは何か?
我々はもっとクリエイティブに人生を楽しく生きることができるのか?
我々が生きる世界観をビジュアル化して、その中で、どうやって個人が独自性を出すかという思考の体系化を試みたのが書籍「直感と論理をつなぐ思考法」です。
直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN
著者は、戦略デザインファーム「BIOTOPE」代表の佐宗邦威氏。
佐宗氏によると、独自性を生み出す源泉は「妄想」で、そこから自分の生きる道を見つける思考法が「ビジョン思考」と言います。
文字でどこまで表現できるか分かりませんが、できるだけわかりやすく解説していきたいと思います。
カイゼン・戦略で疲弊する現実世界
佐宗氏の描くイメージでは、今、我々が生きている世界は毎日汗水たらしながら会社で働く人々や、Youtuberのように独自の世界を生きる人など、大きく4つのフィールドに分かれています。
- カイゼンの農地
会社、工場、農地などが日々の業務で生産性向上に営む世界。
必死に働く人が居る傍ら、「機械化の波」にのまれ落ちていきそうな人々が必死にしがみついている姿が描かれています。 - 戦略の荒野
カイゼンの農地に居る人たちが、現状を飛び出し、自分たちの生き残りを掛けて、マーケティングという名の剣を取り陣取り合戦をする世界。 - デザインの平原
戦略の荒野から「デザイン思考の橋」を渡ってたどり着く、独自のポジションが取れる穏やかな平野。 - 人生芸術の山脈
3つのエリアとは別に、高くそびえる山々と、楽しそうに頂上をめざす人。
Youtuberなどはここでしょうか。
書籍では、とても分かりやすい1枚のビジュアルで表現されていますが、ブログでは転載できないので、上の説明でイメージしてみてください(笑)
我々の多くは「カイゼンの農地」や「戦略の荒野」に居ます。
突き抜けたイノベーターは、デザインの平原を抜けて、平原にたどり着くことができ、ぶっ飛んだクリエイターは周りに目もくれず山を登ります。
では、イノベーターでも、クリエイターでもない我々は、この境地にたどり着くことができるのでしょうか?
「ビジョン思考」のサイクル
農地や荒野で過ごす人々も、いったんこのフィールドを抜けて、「自分自身と向き合う」地下の世界に潜り込むことで、独自の力を発見できるようになります。
現実の「カイゼンの農地」では、「計画」→「実行」→「検証」→「改善」と言ういわゆるPDCAを回して日々を過ごします。
一方、地下の世界では、「妄想」→「知覚」→「組替」→「表現」というサイクルで独自の世界にたどり着きます。
著者は、このサイクルで考えることを「ビジョン思考」と呼んでいます。
- 妄想の部屋
他人のために働くのではなく、「自分モード」に切り替えて、ひたすら自分の欲望やワクワクすることに向き合う部屋。
無地のノートに手書きで考えていることや、アイデアを描きなぐって過ごします。発想に決まりはなく「100億あったら何をするか?」など、自問しながら妄想を膨らませ、描き散らしていきます。 - 知覚の部屋
妄想を元に、1枚のビジュアルにして、ぼんやりしていた妄想をアイデアの形に起こしていくスケッチ部屋。描いたビジュアルやスケッチには、名前をつけていきます。 - 組替の部屋
アイデア化されたビジュアルを第三者の目で見つめ直し、独自性のあるものに組み替えていく部屋。「人間が行う」→「ロボットにやらせる」のように、あえて逆転の発想で異なる要素を加えたり、別のもので代替できないか類推しながらオリジナルなアイデアに変えていきます。 - 表現の部屋
組み替えて作られたアイデアは、この部屋で簡単な工作レベルのプロトタイプとして作ります。机上で分析や評価などはしません。そのプロトタイプから、第三者のフィードバックを受けつつ、楽しみながら仕上げていきます。
この過程を経て、あるものは上の世界にジャンプして「デザインの平原」にたどり着き、あるものはそのまま「芸術の山脈」を登っていきます。
書籍のタイトルにあるとおり、「直感レベルの妄想」が「論理」とつながり、「独自の表現」に昇華されていきます。
ビジョン思考は習慣で身につけられる
著者が繰り返し語っているのは、ビジョン思考やデザイン思考と呼ばれるものは、実際に絵を描く巧さではないということです。
下手でも良いから恥ずかしいものでもいいから、妄想を手書きでビジュアル化する習慣をつけることが大事だと言います。
この習慣を続けるためには、妄想するための「余白」の時間を作ることが大事です。
現実世界では、「お客さま」のために仕事をし続けるのは美徳かもしれないけれど、他人のためだけではなく、もっと「自分モード」で生きることを佐宗氏は提言しています。
余白の時間を作って「自分モード」で考えることは、尖った事業やサービスを生み出す力となり、自分の生きる道を切り開きます。
すでに個人の妄想だけで、誰よりも高い山に登って居る人もいます。
今後、高い山が次々と切り立ち、相対的に農地や荒野が小さくなることが想像できます。
ビジョン思考という右脳的な抽象概念を、一つの方法論として落とし込んだ「直感と論理をつなぐ思考法」。
実は1度目に読んだときにはよくわからなかったのですが、2度目3度目と繰り返し読んでジワジワと素晴らしさが伝わりました。
今、できるビジネスパーソンに注目を浴びている問いを立てる力、アート思考につながる重要な思考法が学べると思います。