マーケティングの入門書として、基礎の基礎からわかる本をお探しの方、”マーケティング”と大きく書かれた本でなく、こちらを読んでください。
「ドリルを売るには穴を売れ」です。
ドリルを売るには穴を売れ
「いやいや、工具を売る話とか関係ないんですけど……」と言う方、ご安心ください。
ドリルの話はほんの例え話で、本の中に一部しか出てきません。というかメインとなる事例は、ドリルとは全く関係ない「赤字続きのイタリアンレストランの再生」です。
よくあるマーケティング指南本とは違って、体系的な知識の手法からではなく、事例やストーリーで「お客さま(見込み客)の捉え方」を理解することに重きを置いています。
言い替えると、「概念的なマーケティング理論」よりも、自然な流れとして「正しくお客さまを見極め、商品やサービスを提供する方法」をやさしく学べるということです。
わかりやすく、読み物としても面白い本です。その一部を紹介します。
欲しいのはドリルではなく穴。お客さまにとっての価値を考えよ
この本で最も言いたいことは、書籍のタイトルにしている比喩に集約されています。
「ドリルを売るには穴を売れ」
お客さまはドリルが欲しいのではなく、穴を開けたいのだから、そのお客さまの価値、つまり満たしたい欲求を掘り下げて考えることが、マーケティングで大切なことです。
売り手視点では商品の機能面で考えがちな一方、お客さま視点から見ると、どのような穴が開けたいのかが大事であり、さらに手間や時間、費用など人によってさまざまな欲求があります。
最も重要なのは視点の切り替え。お客さま視点で考えることが第一歩です。
人によって要求は異なる
ドリルの例で、「人によってさまざまな欲求がある」と書きました。
まさに、この点を突き詰めて考えていくのがマーケティングの大切なプロセスです。
「人によって違うのだから、全方位であらゆる特徴を打ち出せば良い」と考えると、全く売れない結果に終わるのがセールスの世界です。
なので、誰に向けて売るのかを決めてから、戦術(売り方)を考えていく必要があります。同書「ドリルを売るには穴を売れ」の中でも、「絞らなければ誰にも売れない」とハッキリ書かれています。
では、どのように対象(ターゲット)を絞るのか?
その方法として、「人口統計的セグメンテーション」と「心理的セグメンテーション」を組み合わせて考えるのがセオリーです。簡単に言うと、人口統計的セグメンテーションとは、「子育て中の40代女性」というもので、心理的セグメンテーションとは、「新しい物好き」「節約志向」といったものです。
これらを組み合わせて、「40代の子供が居る女性で、子供への投資が多いことからも節約志向である」といった表現で、絞っていきます。
差別化は「3つの軸」で考える
お客さま視点が得られたところで、その対象に対して、自分の商品がどのようなポジションを取っていくかを考えます。
もちろん、市場を独占できれば、その中で高い価値を提供できます。しかし、多くの場合、自分の商品やサービスを売る市場には競合が存在します。この競合に対して、独自の価値を提供し、有利な立場を取ることを「差別化」と言います。
「ドリルを売るには穴を売れ」は、差別化の観点もお客さまの視点でシンプルにまとめています。 同書に書いてある「差別化の三つの軸」は以下のとおりです。
- 手軽軸
とにかく手軽さを求める層に対して「早さ」「安さ」「便利さ」を売りにする差別化戦略です。 - 商品軸
とにかく良いものを求める層に対して、商品・サービスの「品質」や「技術」を売りにする差別化戦略です。 - 密着軸
お客さまの「居心地の良さ」や「馴染みがある安心感」など、親近感を重視し、心理的な距離感を詰めていくような差別化戦略です。
この中で軸を決め、さらに強みを具体化して押し出していく商品化・広告戦略をしていくことで、競合がある中でも、独自のポジションを取ることができます。
マーケティングは、文章作成や人材育成などにも役立つ必須スキル
ここまで書籍の一部を紹介してみました。その他にも、欲求やベネフィットの種類、マーケティングでは必ず理解すべき3Cや4Pといった知識も、わかりやすい例で学ぶことができます。
また、赤字続きのイタリアンレストランの再生に挑む女性のストーリー(フィクション)が各章に挿入されており、マーケティングの流れが楽しみながら学べるようになっています。
著者曰く、このような構成が、競合ひしめくマーケティング本の差別化戦略になっているといいます。マーケティング本としての説得力がありますね。
文章を書くときや、プレゼンの構成を考えるときにも、誰に何を提供するのかが最重要なので、マーケティングプロセスを通っていくことになります。
また、例えば上司が部下に、会社や商品のポジション・戦略を伝えたり、部下の欲求(出世なのか、自己成長なのかなど)を理解して、示唆を与えたりするときにも、このような考え方は役立ちます。
つまり、マーケティングはすべてのビジネスパーソン必須のスキルになります。その第一歩として非常に読みやすく、理解しやすい本であることは間違いありません。