働き方&仕事観

コーポレート・トランスフォーメーション(CX)とは?【書籍紹介・要約】

投稿日:2020年7月28日 更新日:


バブル崩壊以降、日本国内企業が失速・低迷。 GAFAMや、中国企業にも後塵を拝する構図になっています。
さらに、追い討ちをかけるかのようにコロナウィルスが発生。

このような危機的状況から、日本企業が生き残るにはどうすれば良いか?
数多くの企業再生を担ってきた経営共創基盤(IGPI)のCEO冨山和彦氏は、日本型経営のあり方を根底から変える「コーポレート・トランスフォーメーション(CX)」が必要と述べています。この考え方をまとめたのが、同名の書籍です。



コーポレート・トランスフォーメーション 日本の会社をつくり変える


「コーポレート・トランスフォーメーション」には、大小問わず国内企業の経営層に向けた「生き残りを賭けた組織変革の草案」や、もっと広い話として「日本の国力を維持、復活させるための提言」が書かれています。

もちろん企業や社会のシステムが変われば、個人のキャリア形成の考え方も変わります。経営層でなくとも、将来生き残る会社の”CX度”を知る上で読む価値のある本です。

冨山氏は、聡明かつ語彙力が豊富な方です。経営層に向けた一冊なので難しい用語もたくさん出てきますが、私なりに少し噛み砕いてその一部を紹介したいと思います。


野球選手にサッカーを始めさせるオワコンな日本的経営


コーポレート・トランスフォーメーションとは、私の解釈では、窮地に立たされた日本企業に必要な抜本的な経営改革(変革)のことです。

バブル絶頂期には、当時の世界時価総額ランキング上位10位のうち、7社が日本企業でした。
しかし、インターネットをはじめとした「デジタル革命」により、GoogleやAmazonなどのいわゆる”GAFAM”が台頭。今や大きく水を空けられ、今やその跡形もない状況です。

冨山氏は、このようなゲームチェンジに対応できなかった理由として、”硬直的な”日本的経営・制度の問題を指摘しています。
「取り組む種目が、野球からサッカーに変わった」ほどのインパクトがあるにもかかわらず、日本人は野球選手にサッカーを教えており、その間に絶望的な差が生まれていると言います。

これは経営をスポーツに置き換えた例ですが、次のような特徴に、日本企業の衰退が見て取れると書かれています。

  • 事業の成長期を超え、成熟期を迎えても薄利多売戦略にこだわり続ける。
  • コモディテイ化(他製品の同質化)が加速。ハード単体のモノ売りビジネスでは、投資を回収するまで持たず撤退。
  • ソフトウェアやOSを含むサービス展開(アーキテクチャ転換)に参入しなかった。
  • 携帯端末で敗北したノキアが交換機メーカーへ転身したようなビジネス転換が、多くの日本企業ではできなかった。

これを見ると多くの「トップの判断ミス」があるように読み取れます。
わかりやすく野球選手をたとえにしていますが、「プレーヤーの問題」と片付けるのではなく、人材活用や現場での事業推進における「マネジメント・経営の問題」、さらにはその集合体としての「制度および社会の問題」として捉える必要があります。


「両利きの経営」を可能にする柔軟な体制が求められる

日本企業が直面している状況を覆すには、社内幹部向けに時間をかけて「戦略」を練るような旧来型のスタイルではなく、変化に即応し、イノベーションを起こすための機動的な経営・体制が必要です。
冨山氏は「戦略は死んだ」という過激な表現で、日本にイノベーションが生まれない姿勢(体制)の問題を指摘しています。

そして今必要なのは「両利きの経営」。
事業の全てを捨てるのではなく、現実的な解として、見込みのある既存事業を深め(深化)ながら、そこで得た資金で新規事業を模索(探索)することの重要性を述べています。

ただし、「両利き」と言っても既存事業を深める人間が、新規事業を模索する人間として両立することではありません。むしろ不適格。
深化タイプの人間・事業と、探索を行う人間・事業は別で、後者は「新しい(外部からの)力」を取り込むことが必要。そのことがポジティブに受け入れられる組織体制と、社会に変えていくことが求められます。

求められるのは新しい種目に対応できる人材。
中高年が間接固定費として、重くのしかかっている状況にメスを入れなければ、企業という船ごと沈没していくという冨山氏のストレートな主張です。
現状を憂慮し、年功という特権を認めない厳しい姿勢が行間から感じ取れます。


新しい会社の制度・仕組みのあり方(一部抜粋)

では、企業レベルでどのような仕組みに変えていけば良いのか。
冨山氏は「新憲法草案」という重みのある名前の提言として、企業のあり方を詳細にまとめています。一部だけ抜粋させていただきます。

  • 人材の多様性、開放性、新陳代謝サイクルは10年(平均就社期間10年)
  • 能力制、男女平等の人材ポートフォリオ
  • ジョブ型雇用、通年採用・転職に前向き、再入社歓迎
  • 能力ベースのフラットな組織階層構造
  • 意思決定は、スピードと実効性重視
  • 組織、機能、構成員単位で責任権限を付与、自由な裁量
  • 同質・過剰になった組織能力は、新陳代謝を躊躇なく行う
  • 異質な人材の採用、M&A、ベンチャー企業の活用などを強化

表現の一部を抜粋しているため、誤解のある切り取りになっていないか心配ですが、興味のある方は同書をお読みください。
人材の流動化を進める中で、人と企業が育ち、産業全体が強化され、そして日本を支える力にすることを見据えた草案と言えるでしょう。

上記以外にも、財務経営やコーポレートガバナンス観点での提言がまとめられています。
また、中小企業向けにも、同様の内容が記載されています(基本的な考え方は同じ)。

労働者サイド、特に若い世代の人も、このような経営視点から自分の価値をどう高めていくか考えるきっかけになると思います。


「コーポレート・トランスフォーメーション」は、企業に内包される問題を、見て見ぬフリをしてきた企業経営層に、厳しい現実を投げかけた刺激的な一冊です。
書ききれませんでしたが、デジタル革命のスマイルカーブ現象や、両利きポートフォリオの見直し観点など、事業のどこを見るべきかの指摘も明快です。

下記の「コロナショック・サバイバル」と併せて、冨山氏の経験に基づく慧眼に、多くの学びがありました。



コロナショック・サバイバル 日本経済復興計画


「ジョブ型雇用」は本当にあるべき姿で、課題はないのか?
最近、日本でも旧来型の年功序列制ではなく、ジョブ型雇用に移行する流れが進んでいます。 ジョブ型雇用とは、明確に決められた職務にもとづき雇用され、成果に応じて評価

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