アメリカでは、トランプ大統領がいち早くコロナウィルス対策に総額2兆ドル(約220兆円)の支給を判断し、大人には13万円、子供にもその半分弱の金額が渡るようです。
日本でも「1日も早く手に渡る方法」での現金支給が待たれる状況です。
他国でも同様の政策が取られている中、イギリスのジョンソン首相は3月18日の議会で、「(景気対策において)ベーシックインカムの導入は検討すべきアイデア」という考えを示したようです。
ベーシックインカムとは、全国民に毎月一定額を支給して、最低限の収入を保証する政策です。
コロナウィルスが発生・流行する前からその必要性を唱えていた歴史家ルトガー・ブレグマン氏の主張を中心に、今の状況において日本での適用はありうるか考察したいと思います。
目次
AIとの競争には勝てず、格差が拡大する
AIの進化は事務職を生業とする「中流」階層の仕事を最初に奪い、格差を拡大させます。すでに、ビルゲイツやジェフベゾスなど世界の富豪上位8名が、世界の下位36億人と同等の資産という報告もなされています。
AIと争っても勝てる見込みはなく、仕事を奪われていった人がさらに貧困層となり、社会の活力が失われていきます。そのような事態を避けるためにも、今こそ時間と富の再分配、ベーシックインカムが必要だとブレグマン氏は述べています。
貧困は個人のIQを14ポイントも低下させる
英国のサッチャー元首相は「貧困は性格上の欠陥」だと堂々と述べたそうです。
しかし、ブレグマン氏は貧困は「人格の欠如」ではなく、「金銭の欠如」によるものだと強く述べています。
あるサトウキビ農家を対象とした実験によると、収穫前と収穫後のIQを比較した結果、収穫前はIQは14ポイント下がったそうです。
このサトウキビ農家は1年の収穫後の収入に頼っているため、収穫前は金銭が不足し、貧困生活となっている状態です。人は困窮状態におかれると、正しい判断ができなくなる。いったん貧困に陥ると、さらにお金のない状態に拍車がかかるとブレグマン氏は主張しています。
また、フィンランドでもベーシックインカムの実験が行われており、その結果、金銭面での影響よりも、健康や幸福感において、良い傾向が見られています。
懸念されていた勤労意欲の低下は、実験で見る限り影響がないという結果が出ています。
ベーシックインカム最大の問題は財源
ブレグマン氏の書籍「隷属なき道」では、財源については詳しく触れられていません。
しかし、彼が行なったプレゼンの中で、カナダのドーファンでの実証では一定ラインを下回った貧困層に支給する方法を取り、この方法であれば、米国のGDP1%程度の規模で、全国民を貧困から助けられると述べています。
日本での導入はあり得るか?
では直近の貧困対策として日本での導入はあり得るか。コロナウィルスの状況も踏まえてもその可能性は低く、導入されるとしてもまだずっと先になると思います。
大きな理由の一つはやはり財源です。
日本の場合、現行の年金や生活保護を見直して、そこから捻出する方法が現実的であり、これらの多くをカット・廃止して、全国民に一律6万〜7万の実費を支給するのが現実的な案とされています。
貧困層を助け、金銭的余裕から労働時間削減にもつながると思いますが、経済的な影響にネガティブな見方が先行し、生活保護受給者の反対にどう対応するかも議論が必要です。富裕層からの再分配や、資産税を課して財源にするとしても、これらをすぐに実行に移せるとは思えません。
他国の状況を見ながら遅れて検討が始まり、導入されるとしても、社会保障削減と並行した段階的な導入になるのではないでしょうか。
今日の学び:AI時代を生き抜く教養としてBIを理解する
今日取り上げたのは、歴史家ルトガー・ブレグマン氏の「隷属なき道」。
なぜベーシックインカムが必要か、過去の思想家や政治家による試行錯誤、格差が拡大する未来への警鐘など、あらゆる視点で語られます。
「ビジネス書大賞2018」準大賞受賞ということで、読み応え十分。このような教養的知識から、自らの考察をすることで思考力が磨かれるように思います。
隷属なき道 AIとの競争に勝つベーシックインカムと一日三時間労働